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経済学を学びはじめた人の多くは、最初に「消費者の行動」からスタートします。欲しいものを、限られた予算でどう選ぶかという視点は、私たちの日常とも直結しており、親しみやすいものです。
しかし、経済のもう一方の主役が「企業(生産者)」です。消費者がモノを買うためには、それを作ってくれる誰かが必要です。そこで今回は、企業がどのようにモノやサービスを生産しているのか、という仕組みに迫っていきます。
中心となるのは「生産関数」と「限界生産力」という2つの概念。聞き慣れない言葉かもしれませんが、企業がどうやって生産量を決め、どのように人手や設備を増やすべきかを考えるために欠かせない基礎です。実際の職場やお店でも起こりうる身近な例とともに、丁寧に見ていきましょう。
僕は一橋大学大学院の経済学研究科で行動経済学について研究していました。経済学の面白さ、社会での有用性を広げるため、当ブログを開設しました。
このブログ(Economix)では経済学と大好きなガジェットを中心に情報発信しています。
生産関数とは何か?
企業がモノを生み出すには、「材料」や「労働力」といったインプット(生産要素)が必要です。そして、その投入量と生産されるモノの量(アウトプット)との関係を数式で表したものが生産関数です。
たとえば、あるパン屋さんでは、職人(労働力)とオーブン(設備)を使ってパンを作ります。このとき、以下のような生産関数が成り立ちます。
\( Q=f(L,K) \)
ここで、\(Q\)はパンの生産量、\(L\)は労働(職人の数)、\(K\)は資本(オーブンや材料)です。
本当は、材料と一口に言っても小麦粉や卵、イースト菌など諸々あるので、それぞれ分けるべきですが、入門なので一旦1つにまとめちゃいます。
また、変化するものが多いと考えにくいので、「労働のみ変化させ、資本は一定とする」ことにしましょう。
限界生産力とは?
では、労働者を1人増やしたら、生産量はどのくらい増えるのでしょうか? それを測るのが「限界生産力(Marginal Product)」です。
限界生産力を\(MP_L\)、労働の増加量を\(ΔL \)、その時の生産量の増加量を\( ΔQ \)とした時、限界生産力は以下で表せます。
$$ MP_L = \frac {ΔQ} {ΔL} $$
たとえば、さきほどのパン屋にもう1人職人を雇ったところ、1日のパンの生産量が100個から160個に増えたとします。このときの限界生産力は\( MP_L = \frac { 160-100 } { 1 } =60 \)個です。
この考え方は、企業が「人を増やすべきか?」や「もっと効率を上げられるか?」を考える際に重要です。
具体例:小さなカフェ
- バリスタ1人:1日100杯のコーヒー
- バリスタ2人:1日180杯 → 限界生産力 = 80杯
- バリスタ3人:1日240杯 → 限界生産力 = 60杯
- バリスタ4人:1日260杯 → 限界生産力 = 20杯
人数を増やすほど、1人あたりの貢献度が小さくなっていますね。これには理由があります。
収穫逓減の法則
ここで登場するのが、収穫逓減の法則(Diminishing Returns)です。
ある段階までは、労働者を増やせばどんどん生産量も増えますが、設備や作業スペースが限られていると、やがて「これ以上増やしても効率が落ちる」状況になります。
先ほどのカフェの例では、バリスタが3人まではスムーズに作業できていたけれど、4人目になると作業スペースが狭くなり、互いにぶつかり合うようになった。結果、全体の生産量はわずかしか増えない、というケースです。
このように、インプットを増やしてもアウトプットの伸びが鈍くなる現象は、多くの業種で見られます。
平均生産力と限界生産力の関係
もう一つの重要な概念が「平均生産力(APL: Average Product of Labor)」です。
APLは以下の式で表されます。
$$ APL= \frac {Q} {L} $$
たとえば労働者が4人いて合計生産量が260個なら、平均生産力は\( APL = \frac {260}{4}=65\)個です。
そして、限界生産力(MP)との関係に注目すると、以下のようなことが分かります
- MP > AP:平均がまだ伸びる(貢献が大きい)
- MP < AP:平均が下がる(追加した人が足を引っ張っている)
- MP = AP:平均がピーク(これ以上増やすと効率悪化)
このように、労働者の追加が全体にとってプラスかどうかを判断する指標になります。現場での人員配置や、採用計画の判断材料にも応用できます。
まとめと次回予告
本記事では、企業がモノやサービスを生産する際の基本的な枠組みとして生産関数と限界生産力を紹介しました。また、実際には働き手を増やしても効率が落ちてしまう場面がある、という収穫逓減の法則についても学びました。
こうした考え方を理解することで、企業がどのように人や設備を増やすべきか、効率の良い生産方法をどう見極めるかといった判断の背景が見えてきます。
次回は、ここで学んだ生産活動の知識をもとに、企業が直面する「費用の問題(限界費用・平均費用)」について扱っていきます。商品をいくらで売るべきか、利益を最大化するにはどれだけ作ればいいのか。価格戦略に直結する知識ですので、ぜひお楽しみに。