ミクロ経済学 連載③「限界効用と消費者の選択:なぜ2杯目のコーラはおいしくない?」

ミクロ経済学

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たとえば、夏の暑い日に飲む最初のコーラは最高においしいですよね。でも、2杯目になると「まぁおいしい」、3杯目になると「ちょっともういいかな…」となった経験はありませんか?

実はこうした日常的な体験にも、経済学的な原則がしっかりと働いています。
今回のテーマは「限界効用」と「消費者の選択」。

私たちはいつも「どれを買うか」「どれだけ使うか」といった選択をしています。
その背後にある“満足度”と“比較”の考え方を、ミクロ経済学の視点で一緒に見ていきましょう。

僕は一橋大学大学院の経済学研究科で行動経済学について研究していました。経済学の面白さ、社会での有用性を広げるため、当ブログを開設しました。
このブログ(Economix)では経済学と大好きなガジェットを中心に情報発信しています。

限界効用とは?なぜ「もっと」はいつも嬉しいわけじゃない

経済学では「効用(utility)」という言葉で、モノやサービスから得られる満足度を表します。
この満足感を得ることが人の行動原理となるわけです。

しかし、同じものをいっぱい買うと、それぞれに対する満足感はまちまちです。
このことを「限界効用(marginal utility)」と言って、ある商品を1つ多く消費したときに追加で得られる満足のことを表します。

言葉だけでは分かりにくいので、例を見てみましょう。
ある日の昼食でピザを食べたとします。

その時ピザ一切れあたりの満足度(効用)は以下のように遷移していくはずです。
ここでいう数字は満足の大きさを大小比較するためのものであり、実際に満足度を数値化できているわけではありません。

これくらい嬉しいな、程度の指標と思ってください。

食べたピザの枚数総効用(満足度の合計)限界効用(追加の満足度)
1枚目7070
2枚目12050
3枚目15030
4枚目16010

このように、食べる量が増えるごとに“追加の嬉しさ”はどんどん減っていきます。
お腹がいっぱいになったり、味に飽きたりすると、一切れごとの満足感は減っていきますよね。
これが「限界効用逓減の法則(law of diminishing marginal utility)」です。

日常の中で「もういいかな」と思った瞬間、それは限界効用がゼロに近づいているサインかもしれません。

効用最大化という考え方――私たちは何を基準に選ぶのか?

限られた人生。
なるべく満足度の高い生活を送っていきたいですよね。

私たちは、限られたお金(予算)の中で、できるだけ「満足度が高くなるように行動している」と考えられています。
経済学ではこの行動を「効用の最大化(utility maximization)」と呼びます。

たとえば、Aさんが1,000円の予算でコーヒーとスイーツを買いたいと考えているとしましょう。価格と限界効用が以下のような場合:

  • コーヒー:300円、限界効用40
  • スイーツ:600円、限界効用60

このとき、1円あたりの満足度は…

  • コーヒー:40 ÷ 300 = 0.133
  • スイーツ:60 ÷ 600 = 0.100

つまり、「お金1円あたりの満足度」で見ると、コーヒーのほうが“お得”です。
このように、限界効用 ÷ 価格という指標を比較することで、どちらを買うべきかが見えてきます。

この考え方を繰り返し適用することで、限られた予算での「最適な組み合わせ(消費選択)」を探すことができます。

しかし、先ほどの章でも言ったように、効用とは数値化できるものではありません
個々人が持っている満足感の優先順位、それを経済学で研究しやすいように観察し、便宜上生み出されている数値になります。

もちろん、私たちの選択が常に論理的で効用最大化に沿っているとは限りません
実際には「つい買ってしまった」「割引に惹かれた」「ポイントがあったから」など、直感や感情に左右される場面も多いですよね。
こうした“人間らしい”行動を分析するのが、「行動経済学」という分野です。
効用の理論をベースに、現実の選択のズレを理解する入り口としても、今回の内容は重要になります。

実生活での「限界効用」の例

食べ物・飲み物以外でも当てはまる?

限界効用はあらゆる消費に応用できます。
たとえば、日常生活の以下のようなパターンでも見られます。

  • 洋服
    同じような服を何着も買うと、新たな服から得られる喜びは小さくなる
  • サブスクリプション
    最初は便利と感じても、使いきれないと満足度は下がる
  • ガジェット
    スマホ・タブレット・PCの3台目を買っても、1台目ほどの満足は得にくい

限界効用の低下を逆手に取るビジネスも

こうした限界効用の逓減を利用し、売り上げを上げるビジネスモデルも存在しています。
例えば、季節限定品など定期的に新商品リリースすることで、 新しさによって効用をリセットし、消費者に再び高い満足度を与えることができます。

このように、限界効用の考え方を理解すると、マーケティングや価格戦略の裏側も見えてきます。

ミクロ経済学の合理的な理論と、人間の感情・心理的なクセの“差”を埋めるのが行動経済学なんです。
この視点を持つと、効用の話はさらに奥深く感じられるはずです。

限界効用から考える“選ばれる理由”

上でも見ましたが、限界効用という考え方は、マーケティングや商品設計の裏側でも使われています。
一見同じような商品が並んでいても、「自分にとっての満足度が高くなりそうなもの」「お得に感じられるもの」が選ばれるのはなぜでしょうか?

たとえば、コンビニで見かけるドリンクのサイズ展開を見てみましょう。S・M・Lの3つのサイズがあったとして、価格差は少しずつ、でもLサイズが一番コスパが良く見える設計になっていることがよくあります。
これは、「お得感=価格あたりの効用が高そう」という私たちの感覚を上手く活用したものです。

また、同じような機能を持つスマートフォンがいくつも販売されている中で、なぜ特定のモデルが売れるのか? それは、単純な価格だけでなく、「この価格でこの性能なら満足できる(限界効用が高い)」という感覚によるものです。
つまり、私たちは無意識のうちに「価格あたりの満足度(効用)」を比較しながら買い物をしているのです。

この視点で見ると、選ばれる商品は、単に性能が高いからではなく、「価格に対して感じる満足度が高い」から売れているとも言えます。
このような消費者行動は、「限界効用」と「価格」の組み合わせによって説明できる、とミクロ経済学では考えられます。

でも、本当に合理的に選んでる?

とはいえ、私たちの選択が常に「効用 ÷ 価格」で判断されているわけではありません。
実際には、「口コミを見た」「店員さんにすすめられた」「限定カラーだった」など、感情や印象に大きく左右される選択も多くあります。

たとえば、実際に得られる効用は変わらないのに、割引クーポンがついていたことで「得をした気分」になって商品を選んでしまう。
これはミクロ経済学的には説明が難しい行動ですが、行動経済学では限定合理性という考え方で受容されています。

このように、限界効用という考え方は、理論的な最適選択の基礎として役立ちますが、そこからズレた現実の行動を理解するには行動経済学の知見が重要になります。

まとめ

本稿では、限界効用という概念を出発点に、消費者がどのように選択を行っているかを見てきました。限界効用とは、「ある財を1単位追加で消費したときに得られる追加の満足度」を意味し、通常は限界効用逓減の法則が適用されると考えられます。
こうした性質を前提に、消費者は限られた予算の中で効用、つまり満足度を最大化するように行動するというのが、経済学における基本的な仮定です。

この理論的枠組みは、日常の選択すべてを完全に説明できるわけではありませんが、なぜある商品が選ばれ、どのように価格が影響を与えるかを考える手がかりになります。
また、行動経済学のように、こうした合理的なモデルでは捉えきれない人間の意思決定を扱う分野への入り口としても、限界効用という考え方は重要です。

次回は、今回学んだ内容をもとに、無差別曲線と予算制約という二つの要素を使って、消費者の最適な選択を図で視覚的に理解していきます。

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