ナッジとは

行動経済学
行動経済学

近年行動経済学が盛り上がりを見せており、「ナッジ」という言葉を見聞きした方も増えてきているのではないでしょうか?

今回は初投稿ということで、行動経済学で最も有名な理論である「ナッジ理論」について紹介していきたいと思います!行動経済学については下の記事をご参照ください!

僕は一橋大学大学院の経済学研究科で行動経済学について研究していました。経済学の面白さ、社会での有用性を広げるため、当ブログを開設しました。
このブログ(Economix)では経済学と大好きなガジェットを中心に情報発信しています。

ナッジ理論とは

ナッジ(nudge)とは2017年にリチャード・セイラー教授らによって提唱された理論で、元々は「(注意を引くため肘で)軽く突くこと」という意味です。この意味合いから転じて行動経済学では「人々が自分自身にとってより良い選択を自発的に取れるように手助けする政策手法」とされています。

経済学の世界では「経済人」という仮定がおかれており、これまで「全ての人は利己的かつ合理的に自分の利益を最大にする」と考えられてきました。しかし、研究を重ねるにつれ「実際の人間というものは全然合理的ではないぞ」ということがわかってきました。「限界合理性」とも呼ばれる話です。この潮流から生まれてきた分野が「行動経済学」というわけです。

では、合理的でなかったらどうなるのか?
端的に言ってしまうと「本来より損をする」のです。合理的に行動していれば利益を最大化できるわけですから、合理的でないなら最大の利益を得られないということです。政府や社会は経済をよく回して個人と国の利益を最大にしたいと考えているので、これは非常にもったいない問題です。そこで、人々にきっかけを与えて「もったいないを減らす」を目的として出てきたのがこのナッジというわけです。

自発的であることが実は大事

先ほどのナッジの説明では「より良い選択を自発的に取れるように手助けする」という点を強調しました。また、これまでの説明で「より良い選択を取れるように手助けをする」という部分の重要性については理解いただけたと思います。限界合理性によって人や社会が「損をしないため」です。
では残りの「自発的に」とはどういうことなのでしょうか?

この点はナッジが生まれるきっかけとなった「リバタリアン・パターナリズム」という経済思想が大きく意味を持っています。この思想は2003年にサンステインとセイラーによって提唱されたものになります。じゃあどういった思想なんだという話です。ざっくり言うと経済学には、「リバタリアン」という「放っておいたら市場は効率的になっていくから個人の思想を尊重したいよね」という思想と、「パターナリズム」という「放っておいたら市場は失敗に向かっていくから政府や中央銀行が管理しないといけないよね」という思想に分けられます。

その中間が「リバタリアン・パターナリズム」です。つまるところ、「人々の自由意志は尊重されて保証される必要があるけれど、ある程度政府などが影響を与えて方向付ける必要もあるよね」という考え方です。じゃあどうやって影響を与え、方向付ければ良いんだ?となって生み出されたアイデアが「ナッジ」というわけです。

そのため、「リバタリアン・パターナリズム」の考えがまずあり、そこに基づく手法として打ち出されたのが「ナッジ」です。あくまでも「自発性を保って影響を与える」のです。

ナッジの例①

さて、ここまでナッジとはどういうものかを説明してきました。そろそろ理論や背景はお腹いっぱいだから具体例を知りたいという頃だと思います。最後に具体例を1つ挙げたいと思います。

よく挙げられる例の1つとして、「デフォルト」を扱ったものがあります。2003年にエリック・ジョンソンとダン・ゴールドステインが実施した実験をはじめとして、人々は「デフォルトを選びがち」ということが証明されています。実際、何かややこしい設定が出てきた時はとりあえずデフォルトのままにしてしまいますよね(少なくとも僕はそうです)。

これを逆手に取ったのがデフォルトのナッジです。
世界中で様々な難病に苦しんている方々がおり、臓器移植を必要としている方も多くいらっしゃいます。しかし、ドナーとなる方は多くないのが現状であり、社会問題の1つとなっています。そこに目をつけたのがセイラーとサンステインの二人です。
そもそもドナーになるには臓器提供意思表示となるものが必要で、「オプトイン」という方法と「オプトアウト」という方法の2種類の意思表示が存在します。オプトインは「提供したい場合に意思表示する」方式で、特に何もしなければ提供しないというものです。デフォルトが「提供しない」というものです。オプトアウトは逆にデフォルトが「提供する」で、提供したくない場合は意思表示をするというものです。
どちらの場合においても提供するしないの選択肢は用意されており、個々人の意思に従って選択することができます。オプトイン、つまりデフォルトが「提供しない」のドイツでは12%の人しか提供を承諾していません。一方、オプトアウトを採用しているフランスでは強制していないにも関わらず99.9%もの人が提供を承諾しているというデータが残されています。

このことからデフォルトが臓器提供意思表示に影響を及ぼしているのではないかと考え、実験が行われました。そして、実験からもデフォルトが「提供」のチームと「提供しない」のチームでは、提供意思の割合に大きな有意差を見出すことができました。
以上より、デフォルトを用いて人々の行動を変えるナッジの存在が示されたのです。

まとめ

以上、ナッジについての紹介でした。
人の行動には限界合理性があり、そうした部分を自由意志を尊重しつつ補完する「リバタリアン・パターナリズム」の考えから「ナッジ」が生まれたということを学んでもらえればと思います。

また、昨今ではこのナッジや行動経済学を医療や福祉などの場面のみではなく、経営にも活かせないかという考えが広がっています。あなたの身の回りにも実はナッジが用いられているかもしれませんね。

今回取り上げた様々な理論や考え方などについてはまた別の記事で紹介していきたいと思いますので、是非ご覧いただければと思います!

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